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活動報告(東北・北海道)

新規制基準に対応した安全対策が強化された女川原子力発電所 並びに女川原子力PRセンターの見学

活動名新規制基準に対応した安全対策が強化された女川原子力発電所
並びに女川原子力PRセンターの見学
実施日令和元年(2019年)10月31日(木)12:30~18:30
場所東北電力株式会社 女川原子力発電所 女川原子力PRセンター
宮城県牡鹿郡女川町飯子浜夏浜118
敷地面積 約 1,730,000 ㎡
参加者22名 (内計装士会8名)
主催一般社団法人 電気設備学会東北支部
協賛なし
共催一般社団法人 日本電設工業協会東北支部
公益社団法人 日本技術士会東北本部電気電子部会
計装士会
報告者東北・北海道地区担当幹事
大束 裕彦
1.はじめに

 今回の見学会は、東北電力㈱殿のご厚意により一般社団法人電気設備学会東北支部主催、公益社団法人日本技術士会東北本部電気電子部会及び計装士会の共催で実施しました。
 東北電力㈱は、1951年に設立され、東北6 県及び新潟県に電力供給を行っております。
 見学させて頂いた女川原子力発電所は、東北電力初の原子力発電所であり、1984年に1号機、1995年には2号機、そして2002年には3号機の運転を開始しました。
 震災で停止して以降、1~3号機まである発電設備は現在発電しておりませんが、2号機の再稼働に向けて安全対策工事を進めている最中です。
 御担当の方の案内のもと行った施設見学につきまして下記に報告いたします。

2.見学内容

 女川原子力PRセンターにて発電所概要及び実施している安全対策についての説明を受けた後、バスにて場内の見学をさせて頂きました。

 1)女川原子力発電所について

 当発電所は、低濃縮二酸化ウランを燃料とした、1~3号機の発電設備があります。
 発電設備の合計出力は217万4千kwであり、宮城県で使用される1年間の電気とほぼ同じ量の電気を発電することができます。
 1号機は、2018年12月21日に運転を終了しており、34年間の計画で廃炉にしていきます。
 2号機は現在、再稼働に向けた審査のため安全対策工事を進めており、合格すれば東北電力で初の再稼働する原子力発電所になります。
 3号機は現在保守を行っており、2号機に次ぐ再稼働を目指しています。

設備概要

1号機 2号機 3号機 
営業運転開始 1984年6月 1995年7月 2002年1月 
定格電気出力524,000 kw 825,000 kw 825,000 kw 
原子炉形式 沸騰水型(BWR) 沸騰水型(BWR) 沸騰水型(BWR) 
原子炉格納容器 マーク Ⅰマーク Ⅰ 改良型マーク Ⅰ 改良型
燃 料低濃縮二酸化ウラン低濃縮二酸化ウラン低濃縮二酸化ウラン
燃料集合体368体560体560体

 2)震災前の安全対策について

  女川原子力発電所は、発電所としては最も震源地に近く震度6 弱の地震を記録し、福島第一原子力発電所と同じ最大高さ13mの津波に襲われました。しかし、同発電所は大きな被害を受けることはありませんでした。  
 被害を最小限に留めた要因は、「炉を止める」「炉を冷やす」「放射性物質を閉じ込める」という3つの徹底した対策が機能したことにあります。

  昭和三陸地震をはじめ、過去に大津波の襲来があった地域であることを踏まえ、敷地の高さを14.8mに設計しており、そもそも津波が発電所に押し寄せにくい造りになっていました。
 また、震災前に6,600カ所の耐震工事を行っており、揺れへの対策も進めていました。そして安全に炉を停止するために必要な電源として、送電線を複数持っており、そのうち 1回線から受電することで対応可能な状態でした。(図1)
当時は仮に送電線が壊れても非常用電源により、必要な電気は確保できる状態にありました。
 このような徹底した安全対策により発電所は設計通りに安全に停止しました。

*1:東北電力第1回安全検討会資料
図1 震災前の安全対策

 停止後の原子炉は発熱しているので冷却のために水の確保が重要になります。
  緊急時には海水ポンプを用いて水を確保するようになっており、その際に津波の引き波で水が
 逃げないよう傾斜をつけて取水路を設計していました。(図2)
 福島第一原子力発電所では、この海水ポンプが防波堤の内側(発電所側)に設置されており、
 防波堤を越えた津波でポンプが浸水してしまい原子炉冷却ができなくなった問題がありました。                          *1:東北電力第1回安全検討会資料

図2 福島第一原子力発電所との違い

 3)安全な発電所を目指して

 女川原子力発電所は常に新しい技術や知見を導入し、様々なリスクに対して何重にも対策を行っています。
 地震対策として今後起こりうる最大の地震を想定し、東日本大震災の約2倍の地震にも耐えられる建屋づくりを実施しています。また周辺の森林火災が発生した場合に備えて防火帯を設置し、火災による重要施設の機能が失われないようにしています。
 訓練センターでは、約900通りのシミュレーションで運転員の訓練をして、福島第一原子力発電所のブラックアウトの中での運転操作状況も再現することが可能です。
 また、福島第一原子力発電所のように水素爆発を防ぐため、水素結合装置を設置して、触媒による水素と酸素を結合させて水に戻すことで水素を除去し、原子炉建屋内での水素爆発を防止するようにしています。
 さらに、同発電所所員の一部の方は敷地近くの寮に住んでおり、有事の際にはいつでも駆けつけることができる体制を取り、訓練も行っています。
 万一に備えた多くの設備を実際に動かすのは人であり、どんな事態でも冷静・迅速・的確に対応できるよう日頃から訓練は欠かさないとのことです。
 2号機の再稼働に向けて「世界最高水準」の安全レベルである新規制基準のクリアはもとより、発電所で働く人々が一丸となり、自主的な安全性の向上に取り組まれています。
 より厳しい条件を考慮してリスク対策を進めるだけではなく、重大な事故発生にも対応することができる能力強化を実施することで、女川原子力発電所では「常に備える」を意識した安全レベルの強化が図られていました。
 発電所では常に地域と連携して工事を行っています。女川町は海に囲まれ、山による隆起が複雑だったことで水道を引きにくい地域だったそうです。原子炉を冷やすためには大量の淡水が必要で、女川町と連携して水を引くことにより、原子炉の冷却水の確保だけではなく、周辺住民の方への生活用水の確保も行いました。
 さらに、安全対策工事で出た土などは、女川町や石巻市の復興工事に送られており、女川原子力発電所が地域と共にある発電所であると実感することができました。

3.終わりに

 今回の見学会で、東北電力株式会社 女川原子力発電所の皆様にはお忙しい中、説明及び見学のご案内をして頂き、こころより御礼申し上げます。
 参加者からは発電所の安全性向上に向けた取り組みや福島との違いについて関心を持ったとの声が多く寄せられました。通常、簡単には入場できない場所のため、貴重な機会を設けていただいたことに対して、深く感謝したします。

女川原子力PRセンター入口にて(参加者一同)