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活動報告(関東・甲信越)

黒四ダムの水を利用した水力発電所 建設時の専用ルートの見学

活動名黒四ダムの水を利用した水力発電所
建設時の専用ルートの見学
実施日令和元年(2019年)6月28日(金) 8:00~16:40
場所関西電力株式会社 黒部川第四発電所
  富山県黒部市宇奈月温泉
参加者15名
主催計装士会
協賛(一社)日本計装工業会
報告者Makino Engineering Office
槇野 泰

関西電力株式会社様及び株式会社オプテージ様のご厚意により、一般社団法人日本計装工業会・計装士会共催の黒部川第四発電所を見学する機会を得ることができました。

 黒部川第四発電所は、3000m級の山々が連なる富山県立山町で、長野県との県境近くにある黒部第四ダムの水を使用して発電をしている。
 黒部川第四発電所は『クロヨン(黒四)』と呼ばれ、多くの人々に親しまれています。
 『黒四』は、昭和3年から建設のための調査を開始し、昭和24年からダムの建設計画が始まった。
 着工は昭和31年8月、昭和38年6月に竣工するまで、513億円の工費、延べ1,000万人の労働力を投入した。
 黒四の完成は、電力供給に大きく貢献したばかりでなく、黒部川全体の流量を調整し、下流発電能力をも高めることができた。 

黒四ダムの位置
1.見学会概要

 見学会は2019年6月28日に参加者15名で開催された。参加者は信濃大町駅周辺や大町温泉郷に前泊した。あいにくの小雨の中、電気バスの出発駅である扇沢駅に午前9時に集合して黒部ダムへ、その後黒部ルートという関西電力株式会社の専用ルートを通り、黒部川第四発電所、上部専用軌道を通り、黒部川電気記念館で午後4時過ぎに解散となった。

見学会ルート
2.扇沢駅から黒部ダム駅

扇沢駅から、黒部ダム駅までは、関電トンネル電気バスでの移動となる。
 移動距離:6.1km(トンネル区間:5.4km)、駅間標高差:37m(平均斜度:10度、最大斜度:13度)の関電トンネル電気バスは16分で走行する。
 扇沢駅から黒部ダム駅間は平成30年までは、関電トンネルトロリーバス(無軌条電車)が運行されていたため、関電トンネル電気バスの乗降場所には駅の名称が使われている。

 2-1.関電トンネル電気バス
 関電トンネル電気バスは、トロリーバスと同様にCO2を排出しない環境に優しい乗り物で、関電トンネルトロリーバスのデザインを受け継ぎながらも、ディーゼルバスのエンジンを取り払い、駆動用モーター・リチウムイオンバッテリーを備え、10分間の急速充電機能、折り畳み式車いす用ステップなどの新機能を備えている。 また、関電トンネル内には、破砕帯のイメージを見学できるようになっている 。

関電トンネル電気バス

 2-2.破砕帯(関電トンネル内)
 関電トンネルは、本来は黒部ダム及び黒部川第四発電所建設のために掘削されたトンネルであり、建設当時は大町トンネルと言われていた。
 全長は5.4kmあり、建設工事中いくつもの破砕帯が発見され、頻繁な出水のためこの区間を貫通突破するために大変な難工事となった。
 関電トンネルでの破砕帯は長さ80m、摂氏4度という冷たい地下水と土砂が毎秒660リットルも噴き出したもので、『映画:黒部の太陽』で取り上げられた。                                   破砕帯(青色部分)

出典:http://www.kurobe-dam.com)

 トンネルは1958年全通し、関西電力株式会社が保有している。
 国立公園内に掘られたトンネルであり、「一般公衆の利用に供すること」が建設許可の条件であるため、関西電力株式会社はダム工事完成後、トンネルを通る公共交通機関を運行することによって条件を満たすことにした。
 基本的に黒部ダム・黒四発電所の資材運搬用のトンネルであることから、現在まで一般車両の通行は認められておらず、一般来訪者は公共交通機関として営業運転されている関電トンネル電気バス利用でのみ通行可能である。トンネルは一車線分の幅しか無く、中間に交換地点が設けられている。そのため、電気バスのほか、発電所の資材運搬用の自動車も、予め決められたダイヤにしたがってトンネルを通行している。
 現在は「立山黒部アルペンルート」の一部として、冬季閉鎖期間を除き多数の観光客で賑わいを見せる立山観光の基幹ルートとなっている。2018年11月以前はトロリーバスが運行されていたが、2019年春からは、電気バスにより運行されている。

 2-3.黒部ダム駅
 黒部ダム駅はダムサイトまで200mほどの位置にあり、徒歩で黒部ダム展望台やダムえん堤に出ることができる。

関電トンネル電気バスで黒部ダム駅に到着
3.黒部ダム駅から黒部川第四発電所

黒部ダム駅で関電トンネル電気バスを降りると地下通路が二つに分かれている。地下通路を左に下るとえん堤、右に登るとダム展望台・レストハウスに出ることができる。
 黒部ダム➜関電バス➜インクライン➜黒部川第四発電所 。

3-1.黒部ダム(通称:黒四ダム)
 黒部ダムはアーチ式ドーム型ダムであり、幅492m、高さは日本最大の186m、ダムがたたえる水の量は約2億トンである。
 ダイナミックな放水は景観維持に配慮したものであり、観光用としても放水されている。発電用の取水は、湖岸にある取水口から取り入れて地下水路を約10km下り、完全地下式の黒部川第四発電所(くろよん)に送られている。
 電力を生み出す水は一度も地上に現れない。
 観光用放水で使う水量は毎秒黒部ダムの放水10tonあり、発電で使う水量の7分の1にまで及んでいる。
 2019年の観光用放水は、6月26日~10月15日まで行われる。
 黒部ダム駅到着後ダムサイトに出ると雨が降っていた。霧雨程度の雨が次第に本降りになってきた。

3-2.インクライン

インクラインとは勾配長815m、標高差456mのインクライン上部と下部の間を上下し電力事業用の資材最大25tonを運搬する搬送装置である。
斜度34度あるトンネル内にレールを敷き台車を用いて資材を搬送します。
一般的には資材のみを搬送するのだが、くろよんのインクラインは人員も運ぶことができるよう台車に人員ケージを取付けて運用している。
速度は40m/分で運行されている。黒部ダムえん堤付近から黒部川第四発電所の深さまでの移動に使用した。インクラインとほぼ並行して発電所に水を落とし込む水圧鉄管路が設置されている。

インクライン設備概要図
(出典:人員ケージ内のパネル)
インクラインの人員ケージ
インクラインのすれ違い

3-3.黒部川第四発電所

  (通称:『黒四』発電所)

 『黒四』は、富山県黒部市の国立公園内にあるため、導水路までを含めて、全て地下式に作られている。
 また、最大出力は335,000kWのダム水路式の水力発電所であり、黒部川水系黒部川に位置をしている。
 昭和36年1月に一部営業運転を開始したが竣工は昭和38年6月となっている。
 黒部ダムからは観光ルートから離れ、保護帽を着用し、関電バス・インクラインを利用して 黒部川第四発電所に到着した。

黒部ダムと黒部川第四発電所
(くろよん会議室のジオラマ)

  ヘルメットを着用して黒部ルートへ

黒四発電所会議室
会議卓中央に黒部川のジオラマ

 黒部川第四発電所では、会議室でPPによる説明を聞いた後、発電機室上部ホール、水車と発電機をつないでいるシャフトの回転状況、発電所制御室を見学した。見学時には4台ある発電機の内3台で発電をしており、発電出力は210,000kWの電力を作り出していた。
 黒四の年間平均発電電力量は、約9億kWhで一般家庭29万世帯の1年分の使用電力量に匹敵する。また、黒部川全体の年間発電量は約31億kWh。31億kWhは一般家庭約100万戸が1年間に使用する電力量に相当する。

発電機室上部のホール(発電機上部の表示灯
点灯機が運転中)
ペルトン水車と発電機を      連結するシャフト
(上部が発電機、下部がぺルトン水車)
ペルトン水車
(直径3.3m、重量12ton)
発電機制御室(無人運転)
発電電力量(210MWの表示)
4.黒部川第四発電所(通称『黒四』発電所)から欅平駅

『黒四』からは、黒四発電所➜仙人谷➜高熱隧道➜欅平上部➜欅平と移動した。
 黒四から欅平上部までがバッテリートロッコ列車(通称:上部専用軌道)、欅平上部から欅平までは標高差200mのエレベータで下り、トロッコ列車で欅平へと移動した。
 欅平からは、黒部渓谷鉄道(通称:トロッコ列車、一般乗車可能)で宇奈月駅に着いた。

上部専用軌道・バッテリー牽引車

4-1.上部専用軌道

 上部専用軌道は昭和14年に日本電力株式会社(関西電力株式会社の前身)が仙人谷ダム(黒部川第三発電所の取水ダム)の建設資材輸送路として欅平上部から仙人谷ダムまで延長5.7kmを敷設したものです。
(現在は黒部川第四発電所前までの6.5kmとなっています)
 このようなトンネルの輸送路となったのは、欅平から仙人谷までの河川勾配が1/24、高差250mという急峻な地形のため欅平から川沿いに軌道を延ばすことができなかったためで、エレベータで標高差200mを昇りこの上部専用軌道で残りの50mを徐々にあがっていきます。

上部専用軌道・人員輸送用客車

ほとんどがトンネルで、素掘りの場所が多くなっています。
また建設資材輸送が目的であったことからトンネルの内径が小さく、さらに道中、高温区域(現在のトンネル内は40℃程度)を通過するため、車両は蓄電式バッテリー駆動車と耐熱式客車を使用しています。
 このトンネルの掘削工事では、阿曽原から仙人谷までの間、約500mにおいて岩盤温度が160℃以上に達し、爆薬の自然発火など、我が国のトンネル工事史上に残る難工事となりました。
なお、これらの工事の様子は、小説「高熱隧道」に詳しく描かれています。

上部専用軌道耐熱客車内では                               説明担当者が同乗して説明があった

*この上部専用軌道の利用については軌道の状況を踏まえて当社従業員や工事関係者などに限っており、登山者などは「水平歩道」と「日電歩道」を利用されています。

(出典:トロッコ車両内パネル「上部専用軌道について」)より

4-2.高熱隧道

 仙人谷にダムを建設、そこは資材運搬するだけでも災害が発生する難所。資材運搬用トンネルや水路トンネルを仙人谷の欅平寄りに掘削したところ30m掘り進んだだけで岩盤温度は摂氏70℃となった。
更に推進するとさらに岩盤温度が上昇した。岩盤は触れただけでも火傷を起こすほどに上昇した。また、硫黄分が多く含まれた岩盤であり、掘削するためのダイナマイトが自然発火・暴発を起こした。岩盤温度は最高166℃にまで記録した。
 バッテリートロッコ列車で高熱隧道を通過したが、カメラのレンズがすぐに曇ってしまうほど、温度・湿度が高い隧道である。撮影装置そのものを温度・湿度になじませないと撮影ができなかった。

仙人峡に掛かる仙人谷停車場
仙人谷ダム(黒部川第三発電所用取水口)

4-4.欅平竪坑エレベータ

黒部川第四発電所から欅平上部駅の間を走っている「上部専用軌道」です。欅平上部駅は標高800mにあり、標高599mにある黒部峡谷鉄道の欅平駅とは、資材・人員共にエレベータで輸送されている。
 欅平竪坑エレベータは、全地下式で黒部川第三発電所の取水口である仙人谷ダムの建設のために作られた輸送ルートである。この付近の河川勾配は24分の1という急流であるため、これ以上欅平から河川沿いに鉄道を延長することが不可能であったので、山の中腹に垂直に貫く竪坑とさらにトンネルを開削し、鉄道を敷設して仙人谷ダム地点へ作業員の上下山と工事用資材の輸送に使用しております。その後、黒部川第四発電所の建設に当り仙人谷ダム地点から黒部川第四発電所前まで鉄道が延長されております。
            (出典:竪坑エレベータ内案内パネルより)


 
エレベータは人荷用積載荷重4.50tonと人員用0.45ton(6名)の2基があり、人荷用エレベータにはトロッコ用レールが設備されている。

欅平竪坑エレベータ
欅平竪坑エレベータ(人荷用)

4-5.トロッコ列車

 欅平から宇奈月駅まで運行されているトロッコ列車は今では観光列車として一般の人々に楽しまれているが、元来は黒部川渓谷の水資源開発のために建設された鉄道である。
 大正15年10月/宇奈月~猫又間、昭和5年8月/猫又~小屋平間、昭和12年7月/小屋平~欅平間と水資源開発に合わせて運転が開始された。
欅平駅から上部専用軌道の竪坑エレベータ下部までは、関西電力株式会社の専用軌道(500m)として、機材や人員の輸送という役割を担っている。

トロッコ列車 竪坑エレベータ下部に入線              
トロッコ列車
5.黒部川電力記念館

黒部川電力記念館は宇奈月駅前にあり、関西電力株式会社が水の宝庫と言われる黒部川の電源開発の歴史や黒部峡谷の自然を紹介している記念館。
 館内では、水のスクリーンや水盤に黒部峡谷の四季などを映し出す水のテーマシアターをはじめ、黒部ダム建設の歴史として、破砕帯などを分かりやすく映像を用いて解説している。
 また、水力発電の仕組みや役割についても水車模型やスライドショーなどにより、わかりやすく解説されていた。
黒部川電気記念館を最終地点として、見学会を無事に終了となった。               

黒部峡谷鉄道(関西電力グループ)
欅平駅、トロッコ列車の進行方向が宇奈月             写真の左奥が関西電力専用軌道へ続く
6.むすび

全7時間に渡る黒部ルートの見学会は、黒部渓谷という電源開発の重要性を理解する事ができました。
 黒部川という有数の急流であり水量を誇る渓谷が水資源開発という側面から有効な渓谷であること。
 しかし、傾斜の大きな地域だからこその水資源の開発の難しさ、さらには関西電力株式会社及び関係者の成長をめざし挑み続ける努力や集中力などがあってこ そ水資源が貴重な電力エネルギーとして再生されることになった経緯等を知ることができました。
 この度の見学会において、関西電力株式会社及び関係先の皆様による適切かつ丁寧なご案内・解説もあり非常に有意義な見学会になりました。
 この場を借りて、ご案内戴いた関西電力株式会社及び関係先の皆様に感謝すると共に、我々はこの電力エネルギーを有効活用することとします。

黒部川電力記念館

以 上