四国計測工業株式会社
電気計装部 設計課
佐久間 博文
はじめに
四国電力株式会社坂出発電所は、昭和40年代後半に1号機から4号機まで連続して建設した四国電力殿最大の火力発電所であり、石油と共に近隣の企業から送られてくるコークス炉ガスを燃料とし、常時2機以上運転の運用を行っている。
これまでは、1,2号機は第一中央制御室、3,4号機は第二中央制御室にて運転監視を行ってきたが、昨今の電力自由化に対応すべく、「プラントの安定運転」「設備信頼度の維持」及び、「コスト競争力の追及」のため、二つの制御室を一つに集中化し、コンパクト且つ少人数による運転を実現する「中央制御室集中化工事」を平成13年から、各ユニット定検にあわせて順次実施してきた。
現在、2,3号集中化工事の無事完遂を経て、最後のユニットである4号集中化工事の工場試験を鋭意実施しているところである。
今回は、集中化システムの概要について、以下に説明する。
1.中央制御室集中化工事の経緯
中央制御室集中化に向けての工事は、一括して大規模工事を実施するのではなく、運用面、経済性、実施時期を計り、弁類遠制化等の「基盤整備」、主要制御装置の「老朽更新」、中央制御室の「統合」の3つのフェーズに区分して実施してきた。
各フェーズの概要を以下に記す。
(1) 基盤整備工事(平成14年~15年)
a.現場で手動操作をしている手動弁を、中央制御室から操作できるようにするなど、現場設備の遠制化、操作性向上を図り、起動停止時に中央制御室にて運転監視操作が行えるようにする。
・現場の操作端(手動弁他)を遠隔制御化
・現場監視カメラの増設
・機器異常検知システムの新設
(2) 老朽更新(平成16年~20年)
a.プラント制御装置、バーナ制御装置、ユニット計算機(DL)*1の老朽化が進んでいる制御装置を更新し、デジタル化するとともに、ネットワーク対応機能を付加することにより、ユニットネットワーク*2を構築して、CRTオペレーション化を実現する。
・プラント制御装置更新
・自動バーナ制御装置更新
・ユニット計算機更新
b.ワンループコントローラ等で構成しているローカル制御装置も制御装置と同様に更新しCRTオペレーション化を行う。
・ボイラローカル制御装置更新
・タービンローカル制御装置更新
(3) 統合工事(平成17年~20年)
a.新中央制御室建屋を新設し、第一中央制御室から順次、中央制御室における操作監視機能を移行する。
b.既設BTG盤*3にある操作スイッチ、指示計、記録計、警報などの操作監視機能を、それぞれの制御装置、計算機、OPS*4等の各装置に取り込み、統括オペレーションを実現する。
c.ASP機能*5を付加することにより、プラントの起動停止および通常運転操作をサポートする。
・BTG盤他改造工事
d.大型スクリーンシステムを構築し、情報の共有化を図る。
・共通監視盤新設工事
2. 集中化システム構成概要
集中化システム構成は、ボイラ制御装置(APC,BC)*6、ローカル制御装置(LC)*7、 遠制化制御装置(SQ)*8、ユニット計算機(DL)の主要機器とOPSをユニットネットワークで結び、4台のOPSと大型スクリーンでプラントの起動停止、通常運転における監視操作を集中して行えるシステムを構築した。集中化システム構成における主な特徴を以下に記す。
(1) 4台のOPSで運転
OPSにはAPS機能を導入し、プラントの起動停止、通常運転における運転員の監視操作を補完することにより、少人数化に対応できるようにしている。
このAPSの進行はブレイクポイント方式*9を採用して、あくまでも運転員判断の元に工程を進めていく方法をとっている。また,操作は全てマウスオペレーションで行うことができるとともに,プラントの運転情報を2秒周期で系統画面やトレンドグラフに表示させることにより,操作面,監視面を両立させた,統括オペレーションシステムを構築している。
(2) 警報情報の差別化
プラントの警報は、ユニットネットワークのダウンを考慮しOPSに直接取り込むことにより、ネットワークを介さないシステムとして他の運転信号との差別化をはかった。また、プラントが非常停止した場合の要因を判断するために、トリップシーケンス機能*10も設けている。プラントの非常停止やシステム故障等の重要警報については,監視補助盤に直接表示している。
(3) 大型スクリーンの採用
プラントの系統状態のみならずOPSでの操作画面、現場監視カメラの映像などいろいろな映像情報を50インチ4面の大型スクリーンに表示させることにより、情報の共有化および監視機能の向上をはかっている。
休転ユニット*11の大型スクリーンの有効活用の観点から、休転ユニットのスクリーンには異なるユニットの画面も運転員が選択することで表示可能としている。
(4) FAシステムとの連係
ユニットネットワーク上の全ての情報を計算機用ゲートウエイ(GWD)を通してユニット計算機に取り込み、そこから火力FAシステムへ1分周期でデータ連係、運転データの蓄積を行っている。また、警報や操作ログデータも情報系LANを通して10分周期でデータを連係している。それらの連係されたデータは、事務所のFA端末で確認することができ、運転状態の把握や各種データの管理が可能となっている。
(5) 共通ネットワーク
共通監視装置、送電線操作監視装置、環境計算機で共通ネットワークを構成しており、共通関係の情報は2台の共通OPSに表示する。共通ネットワーク上のデータはあらかじめ選定したデータと環境計算機が直接取り込んだデータを火力FAシステムへ伝送している。
3.2・3号中央制御室集中化工事概要
坂出発電所中央制御室集中化工事のうち,BTG盤他改造工事について、その基本計画や工事概要を説明する。
(1) 2号BTG盤他改造工事
本工事は、既設中央制御室で運転員がプラントの運転監視操作を行ってきたBTG盤の操作機能、監視機能を各制御装置に取り込むための既設盤の改造工事と、第一中央制御室機能の移管工事を行う。
【改造工事】
a.弁類遠制化制御装置改造
・プラントの補機、電動弁等の操作信号の取り込みを行い、遠制化する。
・各種条件を取り込むことにより、シーケンスマスター*12での運転を行う。
b.警報入力装置の新設
・既設警報リレー盤を改造して警報情報をOPSに直接取り込み警報を画面に表示させる。
・現地盤の個別警報についても、取り込みを行う。
・警報は重故障警報、軽故障警報に区分して表示する。
・重要警報(トリップ、手動トリップ要因、システム重故障)については、監視補助盤にシステムを介さずに直接表示る。
c.既設汎用シーケンサ改造
・各装置の汎用シーケンサ(PLC)を連係し一括して情報を取り込むために、マスターPLCを新設する。
・対象装置は、EP装置*13、復水脱塩装置、薬注装置、スートブロワ装置*14などとする。
d.OPS改造
・プラントの全体系統図、タービン監視画面など、大型スクリーンの4面全てを使用した専用画面を追加する。
・APS機能を追加する。
【移管工事】
a.第一中央制御室から新中央制御室への機器移設
・ユニットOPS、共通OPS、工送OPS、その他共通設備機器の移設を行う。
・電話装置、ページング装置等の通信機器を移設する。
b.新中央制御室内への機器新設
・監視補助盤を新設し、プラントの保安上必要な操作スイッチ、警報、指示装置を設ける。
・ユニット操作卓、当直長卓、時計装置、総合監視モニタを新設する。
なお、大型スクリーンシステムの新設は、ユニット計算機更新および共通監視盤新設工事にて実施する。
(2) 3号BTG盤他改造工事
本工事は、前述の2号BTG盤他改造工事の基本計画を踏襲しており、既設第二中央制御室で運転員がプラントの運転監視操作を行ってきたBTG盤の操作機能、監視機能を各制御装置に取り込むための、既設盤の改造工事を行う。
移管工事は第二中央制御室が対象となるが、4号機が残るため第二中央制御室機能の移管工事は4号BTG盤他改造工事で受け持つ。
(3) APS機能の基本方針(2号機)
今回の集中化工事での主要な機能であるAPS機能の基本方針について以下に記す。
a.基本方針
プラントの起動・停止操作および通常運転操作を自動化する。また、制御性・信頼性および保守性の向上を図った合理的なシステムを構築して、運転員がプラント全体の運転監視・操作を集中化できるようにする。
また、運転員が培ってきた運転ノウハウを可能な限り反映させる。
b.改造範囲
ブレイクポイント方式を採用したAPS機能として既設OPS装置に構築する。
また、既設遠制化制御装置のマスターシーケンスを追加、改造するとともにプラント制御装置、バーナ制御装置および、ボイラローカル制御装置のロジックについても改造を行い、APSとの連係を図り自動化範囲の拡大を行うものとする。
c.自動化範囲
自動化はOPS装置のAPS機能を中心として行い、プラント起動準備から目標負荷到達、通常運転からプラント停止に至るまでの過程をブレイクポイント方式により自動化する。
4.4号中央制御室集中化工事の近況
中央制御室集中化工事の最終工事となる4号機は、既設盤の改造、機器移設工事に加え第二中央制御室機能の移管工事を含んでいる。
現在、設計、製作段階を終えて工場試験を行っており、2月上旬のユニット計算機の工場御立会検査、下旬の総合工場御立会検査に向けて順調に仕上がってきている。
現地工事側では、大型スクリーン、入出力装置の機器の搬入を終え、ケーブル工事に取り掛かっているが、4号機は運転中であるため、本格的な工事は3月上旬から始まるプラントの定期検査からとなる。
●ユニット計算機工場御立会検査 :平成20年2月5日~6日
●総合工場御立会検査 :平成20年2月25日~28日
●中央制御室集中化工事竣工 :平成20年5月30日
新制御室イメージ図
おわりに
平成13年の4号弁類遠制化工事の計画から始まった、中央制御室集中化工事も7年あまりの歳月をかけ、いよいよ大詰めとなりました。
コスト低減、技術力向上、設備信頼度維持と厳しい課題の中、2号機、3号機と無事に工事を完遂することができました。今後もランニングコストの低減、機能改善に努めてまいります。
ご指導、ご協力をいただいた関係各社の皆様に、この場をかりてお礼申し上げます。
(用語の説明)
*1 ユニット計算機(DL) :Data Logger発電設備の監視、性能管理、日誌作成用計算機
*2 ユニットネットワーク:発電設備全体(ボイラ、タービン、発電機他)に亘る監視制御用ネットワーク
*3 BTG盤 :B=ボイラ、T=タービン、G=発電機 発電設備の操作・監視用制御盤で、従来は警報窓、指示
計、記録計、操作器などが全面に配置されていた
*4 OPS : Operators Station 運転操作用端末
*5 APS : Automatic Plant Startup System 運転条件に応じてシーケンスマスターの進行を制御するシステム
*6 ボイラ制御装置(APC,BC):Automatic Power Plant Controller 主にボイラー関係の圧 力、温度、流量
を制御、Burner Controller バーナーの点消火を制御
*7 ローカル制御装置(LC):Local Controller ボイラ、タービン関係のローカル的な制御装置
*8 遠制化制御装置(SQ):Sequential Controller あらかじめ定められた順序または手続きに従って制御の各段階
を逐次進めていく制御装置
*9 ブレイクポイント方式:自動化された一連の発電所起動停止制御をステージごとに区切り、運転員の判断で起動
する制御方式でAPSにおいて採用
*10トリップシーケンス機能:重大事故発生時に、あらかじめ選択して入力された接点情報を時系列に並べて出力
し、事故解析を支援する機能
*11休転ユニット:停止している発電ユニット
*12シーケンスマスター:補機、弁類駆動をシーケンス制御する回路ごとに付けられた名称
*13EP装置:Electrostatic Precipitator ボイラの排気に含まれるダストを帯
電させ捕集する装置
*14スートブロワ装置:Soot Blower ボイラ伝熱面に付着した煤、ダストを蒸気の噴霧により落とす装置