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コラム

ロードバイクの愉しみ

ダイダン株式会社
研究開発センター
渡辺 洋平

スポーツ自転車乗りが増えている

 近年,我が国の都市部を中心にスポーツ自転車に乗る人が増えている。健康を意識して乗る人の他,季節を肌で感じ,風を切ることに魅了されて走る趣味人が多いようだ。自転車は,徒歩よりも速くクルマよりもスロー。この程良いスピードは,今まで見逃していたものを再発見させ,よもやま事を考えるきっかけを与えてくれる。ぜひ,みなさんも自転車を生涯の趣味,生活の一部として活用するのはいかがだろうか。本当に愉しいのだから。自転車にも様々な種類がある。
 シティサイクル(ママチャリ),マウンテンバイク,BMX,クロスバイク,ロードバイク,リカンベント,フォールディングバイク・・・など。自分の目的や嗜好で選べば良い。シティサイクルでも自転車の楽しみを享受できるが,できることならシティサイクル以外のスポーツ自転車をお勧めしたい。
 これは散策や食べ歩き,小旅行にも便利な乗り物だ。運転も楽で適度に速く,行動範囲が広がる。今回紹介させて頂くのは,私が専ら生活・趣味に愛用しているロードバイク。
 ロードバイクは舗装路を高速で走る自転車。「ロードバイクはツール・ド・フランスを走っている自転車」と言えばイメージして頂けるかもしれない。ロードバイクは乗り慣れると日帰りで100~200km位の距離のサイクリングもできる。
練習すれば一般人でも30km/h以上で車道を巡航することができる(もっと速く長距離を走る強者もいる)。

ロードバイク

  自転車を趣味としない人に,何十万円もする自転車を買う理由を説明することは難しい。
 私は苦労して妻を口説き落とし,20万円強のロードバイクを買った。ロードバイクの値段は10万円弱~200万円程の幅があるが,私には20万円の自転車だって十分に高価だ。
 各社カタログを読みあさり研究した。私は一目惚れしたイタリアン・ブランドの少々古めで伝統を感じさせるデザインのロードバイクを選んだ。
 趣味なのだから,性能よりも”自分なりの嗜好”を尊重した。ロードバイクに美意識は大切だと思う。

元々スポーツが苦手で健康にも無頓着なタイプだった私は,中年になってからロードバイクに格好良く乗ることを目指し,身体の事(健康・体力・体型)を意識するようになった。
  速く走る事を第一に設計された自転車。乗り心地よりもスピードと操作性を重視。車体重量はママチャリの1/3程度(9kg前後)。片手で楽に持てる程だ。細いチューブ素材を構造計算して造形・溶接した軽量フレーム。細いタイヤにホイール。剛性と軽量化のバランスを考えながら肉抜きされた部品。乗り手の筋力をスポイルすることなくクランクに伝えるための固く高いサドル軽いギアから重たいギアまで選択可能な20段の変速装置。現在の最新変速装置やブレーキは,昔に較べてかなり操作性が良いので驚かされる。
 ロードバイクの機能美と造形美部屋で眺めていて飽きない(このような自転車はマンションの駐輪場などに置くと盗まれるので室内保管が基本。)

サイクリング

  日頃,私は2台の自転車を乗り分けている。
 どちらも大切な自転車だが,古いクロスバイクは普段乗り用(近所の買い物や雨天時)に使っている。
 一方のロードバイクは,愉しみで走る時に部屋から引っ張り出して乗る。多分,この趣味の人は私と同じような使い方をしている人が多い。
 さて,ロードバイクでどこを走るか。
これは個人差があり,河川沿いのサイクリングロードを流すのが好きな人もいれば,アマチュア・レースやライド・イベントに参加する人もいる。
また,自転車を分解して専用袋に入れ,クルマや鉄道等で海や山に出掛けて(輪行という)好きな土地で乗る人も居る。

埼玉県に住んでいる私の場合,土地の利を活かして奥多摩や秩父方面の山間部の峠へ出掛けることが多い。
 往復路を自走する。山は緑も多く坂も多い。森林の空調のおいしい空気を吸い,鳥の声を聞きながら自分のペースで峠を登っていく。反対車線を下ってくる同志を見れば,互いに手をげたり声を掛けて挨拶したりもする。
急坂は辛い反面,愉しみがある。汗をしたたらせ,身をよじらせながら激坂をフラフラになりながら登る。足を着かずに峠の頂上に到達した時は何とも言えない達成感がある。
息切れし,脚はガクガクになるがココロは爽やかだ。ストレス解消。辛い上り坂があれば楽な下り坂がある。だから頑張れるのかもしれない。サイクリングは仲間と走る楽しみもあるが,私はどちらかというと1人で走るのが好きだ。ただ走ることに集中して無心になる。時には,走りながら日常のことをじっくり深く考えることもある。こうした1人の時間は,私にとって大切なリフレッシュ時間だ。
 休日,朝から夕方まで自転車で出掛けたままの私。家族には本当に感謝している。

機械・制御

  本誌をご覧のような機械や制御の専門家なら,自転車に触れていると”メカ”としての魅力にも惹かれると思う。
 形状だけでなく,例えば,ギア比と走行能力の関係,各部品の動きの連携,部品同士の相性,素材の特性を気にしてみる。クルマと違い,自転車は少々の工具と知識があれば殆ど自分で分解整備もできる。部品1つを手にとって眺めても様々な工夫が見て取れる。
 ロードバイクの部品には,ほぼ汎用性がある。規格があり,国内外各社から部品が販売されている。
自分の好み,期待する性能に改造・グレードアップするのも愉しい。サドルやハンドルポジション等のセッティング追求も奥が深い。
  そんなロードバイクは,操縦も”計装的”だと思う。私はロードバイクのハンドルにサイクルコンピュータと心拍計という計測器を取り付けて走っている。この計測器では,現在速度,平均速度,走行距離,積算走行距離,クランク回転数,走行時間,心拍数がリアルタイムでモニタリングできる。
 自転車のエンジンは自分の身体。特に心拍数は大切だ。私は身体中に酸素を運ぶ血液ポンプ(心臓)の回転数(心拍数)をリアルタイムにモニタリングする。長い急坂などで自分の最大心拍数を超えるような負荷が長く続くと,いずれエンジンは壊れ,私は倒れてしまうであろう。
しかし,私はロードバイクの状態や心拍数変化を把握しているおかげで,負荷に応じた安全走行で朝から夕方まで平地や坂をマイペースで走り続けることができる。その他にも走行中はエンジンへの燃料(水分,糖分や塩類など)補給も常に意識し,身体や車体の状態を確認しながら自身を”制御”している。機械を操る愉しみ。計装士の皆さんなら,自転車は仕事のごとく魅了されるスポーツ・遊びかもしれない。

【健 康】

  まじめにロードバイクに乗り始めた私は,速く遠くまで走るため,目標の峠で足を着かずに登るために,20年近く愛していた煙草をやめた。そして,前述の心拍数モニタリングによって体脂肪燃焼に適した有酸素運動状態を維持することも出来る。私は昨年に心拍数管理(有酸素運動)をしながら自転車に乗り,食事制限もせずに半年で10kg近く減量できた。
 健康診断で肥満や血中の中性脂肪が多いとか高血圧を指摘されていた私は,それらの課題をほぼクリアしつつある。
自転車は,体重がサドルとハンドルとペダルに分散されるため,ランニングより身体への負担が小さいながら大きな運動量が期待できる。
よく「自転車に乗ると競輪選手みたいな太い脚になるから嫌だ」と言う人が居る。しかし,競輪選手のような太く強靱な脚になるには,過酷なトレーニングが必要で,趣味人が多少頑張ってもあのような立派な脚は欲しくても得られない。
実際,中年である現在の私の腹周りはメタボで悩ましいところだが(腹周りは今後の課題。
走った後のおいしいビールが原因か。),脚は以前よりも締まって細くなってきている。
私には原文を見つけることができないのだが,ドイツには『トラック1台分の薬よりも1台の自転車を』という意のことわざがあるらしい。「病気になって薬に頼る前に自転車に乗ろうよ。
そうすれば病気になりにくく健康でいられるのだから。」である。今の私なら,それを信じることができる。
実際,ヨーロッパの人は,アジアの人よりもよく自転車に乗ると聞く。社会的地位がある高齢者も「自分はまだこれだけの体力と気力があるのだ。」というアピールで自転車に乗る風潮があるそうだ。知的で意識が高いことだと思う。

道路環境・地球環境

  ヨーロッパ等の自転車先進国は,街の道路環境や政策も自転車にフレンドリーだ。
 田舎のクルマは別として,市街地中心部の交通インフラは,徐々にクルマから公共交通機関・自転車・徒歩スタイルにシフトしてきている。一方,日本はそうではないし,自転車が走りやすい場所が少ない。先進国と呼ばれる国々の中,自転車が歩道を当たり前に走っているのは日本だけだという。
 我が国の道交法では,原則(幼児や高齢者,警察官等が判断した場合などの例外を除き),自転車は車道走行だ。
2008年6月1日施行の改正道交法の中でも,それは改めて明文化された。
しかし今も自転車が車道を走れば危険のままであるし,歩道では自転車は加害者になりやすく,歩行者は事故に遭いやすい。自転車同士の事故も起きやすい。自転車対歩行者の事故でも, 大怪我や死亡に至るケースもある(自転車対歩行者事故でも,極端なケースで加害者の自転車高校生に5,000万円もの賠償命令の判例あり。注意していても事故は起こり得る。
 手軽にはクルマ保険の特約にある安価な賠償責任保険などの加入だけでも勧め。)。今の我が国の交通慣習(マナーの悪い自転車乗りが多いことも含め)が残念である。
 「車道にはクルマ以外に自転車も走っている。」ということが国民に広く認知されるだけで,自転車とクルマ達はもっと安全に共存できると私は考える。変化を始めている我が国の交通行政に期待したい。
  ささやかながら地球環境の話も。自転車も製造・流通過程では,鉱物資源・エネルギー等を消費するが,クルマ製造や走行よりは二酸化炭素排出量は少ないはずだ。大袈裟に言うならば,自転車のルールやマナーが遵守され,交通インフラとしてクルマ等と共存・活用されれば,我が国はもう少し健やかで環境にやさしい社会になるのではないか。
ちょっとした1人移動なら,なるべくクルマを控えて自転車を活用してはいかがだろうか。
個人差があるが,私は半径20~30kmの移動なら殆ど自転車で用事を済ませるようになった。
もちろん,みんなが自転車に乗ったからといって地球温暖化が大きく抑制されることはないだろう。でも微力ながら出来ることから始めたい。私の自転車仲間にも多いが,自転車に乗っていると地球環境や行政のことを考える機会が増えるらしい。自分たちの暮らしと子供達の未来
私は今日もサドルの上でよもやま事を考える。

  いや,私は別に難しいことを考えるためでなく,ただ自転車が好きだからロードバイクに乗っている。まだ自転車の魅力に気付いていない方には,ぜひ自転車生活をお勧めしたい。
ちょっぴり人生がシンプルかつ豊かに変わる・・・かもしれない。